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  • 執筆者の写真古林拓也(いろむすび山菜屋)

翡翠のワラビ






いろむすびの宿の古林です。

今日は村上産のワラビにまつわる物語をご紹介します♪



 


こんなに奥深いのか。


天然ワラビの山は険しいと聞いていたが、文字通りの険しさに本当に驚いた。


体の周り360度が土と枝と葉と草に囲まれる。目の前数センチで野生的なものに囲まれるのだ。


30度ほどある傾斜の斜面を登る。

猿のように。かかさ(お母ちゃん)達が。


おーい、おーい


数分ごとにかかさ達は声を掛け合い、はぐれないようにする。

迷った時は沢べりを降りる。


山の掟がいくつもあった。


あまりに険しい山をゆく中で自分自身が次第に山の中に溶け込んでゆくような不思議な感覚にとらわれる。





 


目指す場所にたどり着く。

ここだと言われて、どこだと思いながら地面に目をやると、捻り上がったワラビが顔を覗かせた。


ああ、これがワラビか。


険しい山の奥の土と枯葉と雑草をかき分けながら、野生のワラビは天に向かって捻りあがる。


平地の直立するワラビとは全く違う。

捻り上がりのその見事なプロポーションに、僕は生命の躍動を覚えた。


その野生のワラビは生命力を体内に蓄えて、深遠なる翡翠色をしていた。

僕は全身に汗をかいていた。







 


加工場に戻る。

斜面30度の山での重労働は実はまだ1/3の段階である。


かかさ(お母ちゃん)がひとつひとつその野生のワラビをより分けて、長さを揃え縛り上げる。

アク抜きする工程を想定しながら、太さを揃える、長さを揃える、重さを測る。


当然ではあるが全て手作業。機械化はまず無理。

これが手仕事。


これが全て終わる頃には夜22時を迎える。




最後の1/3の工程はアク抜きである。


ワラビはそのままでは渋く食べることは出来ない。

アク抜きが必要なのだ。


銅鍋で重曹と共に束ねたワラビを加熱する。

所定の温度で、所定の時間加熱して、自然に覚ましてゆく。


この過程でワラビの中の渋みが抜かれてゆく。


山菜歴40年のかかさの勘所と手仕事に支えられているわけであるが、

どうもこのさじ加減が難しく、山菜屋の主人を名乗りながら

これをかかさのように上手に仕上げることができないでいるのだ。







 



翌朝、仕上がった野生のワラビ。


肌は艶やかで、見事な翡翠色。


柔らかく、口に入れると弾力を感じ、後から上質な滑りがやってくる。

そして最後にフワッとワラビが香る。


控えめに言って、極上品。


この極上品が、かかさ達が1/3ずつかいた汗の先にあるのだということに思いを馳せるにつけ、僕はこの【翡翠のワラビ】に急に愛おしさを覚えていた。








いろむすび山菜屋 主人

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